2013年10月11日金曜日

10月前半の詩誌・詩集

★詩誌・詩集のご恵送ありがとうございます。

●橄欖・第97号(日原正彦さんより)。同人5人の雑誌。奥様を亡くされたあとの日原さんの悲しみや寂しさが伝わってくる。日原さんと同じ東京の同人誌に入っていたことがあった。その時に名古屋で同人会があって、奥様にもお目にかかった。仲良しの二人だった。日原さんが、黙々と詩を書き、詩誌を発行する姿が静かで熱かった。
 

●季刊詩誌阿吽a-hum第9号(たなかあきみつさんより)。創刊号から、たなかあきみつさんが送ってくださっている、表紙画がとても贅沢な雑誌。もちろん内容もたなかさんの翻訳詩や注目の新人詩人たちの興味深い詩作品がズラリ。阿部嘉昭さん、河津聖恵さんの作品も注目ですね。おもしろかったのは、☆松本秀文さんの贋作『世界の構造』です。
 

●阿部嘉昭詩集『ふる雪のむこう(思潮社)』。昨年に続いてのオンデマンド出版の詩集です。オンデマンドに2年続けて挑戦というところにも注目しました。二行聯詩72篇の長篇札幌抒情詩のように感じました。難しい構造ではなくて、言葉使いも極めてシンプルで淡々と札幌生活が綴られていきます。読み終わると雪の寒さがじんわりと滲みてくる静かなたたずまいの白い詩集です。単身赴任ですから静かさの中に、寂しさも感じられます。あらゆる思いや物が、ふる雪に冷やされていくような感覚があります。好きな作品は、最後の「一哀のあと」などでした。

詩・「鳥の領分」   

鳥の領分」から、Lessonです。長篇詩なので、Lessonのみです。
「鳥の領分」         小島きみ子

1 Lesson

 さて、
 一つの方法としてわたしは水底を求めた。水はわたしを引いて道を開けた。Ekstaseだった。何故ならそれは(わたしはわたしじしんからぬけだす)というギリシャ語のekstasisに由来するので。
 淵ではわたしより先に来ていたバロツク的な装いの「方」がいらしたのでフロイト的サイコセラピー的な自己紹介をしなくてはならなかった。(現実の破壊と生の起源とは無への帰還でしたので。)その「方」は(フーン)と言った。閉じていた二枚の頭の翼を広げながらここでの過ごし方として、琴の音が聞こえても上昇してはいけないと念をおされた。それは精霊に恋をすると再びの死を遣りなおさなくてはならないのだという。もはや。外部ではなく世界の内部だった。それを忘れたらわたしは...この世からもあの世からも消えて無くなるのだ。

 それゆえに、
 飛ぶこと飛び上がることを練習させられた。魂の身体からの離れ方。つま先で立って歩けるようになってからは人類であったときの感受性が失せた。飛び上がることは空虚になることだった。肉体に日々課せられる筋肉の痛みは苦しみから苦しみを経てわたしに変容を起こさせ我を忘れさせた。そして一気に何かがわたしに襲いかかり言葉無き叫び声をあげてわたしはあの「方」と踊っていた。
 ペルソナの原型的行為として、
 わたしを覗き込む「貌」があった。(知っちゃいないさ)とその「貌」が言った。とりあえずは形而上学的なパ・ドウ・ドウを遣りぬくことが肝心だった。それから。水はさらに底へとわたしを引き込んで行った。