2017年5月8日月曜日

(灰色の瞳の)


(灰色の瞳の)



ゆれているのは、光。
(愛)に試練を与えたから。






                     
1. ツグミ
真夏日が報道されるころから、
目の裏に、工事現場にいたツグミが飛んでいた。
午前中は福祉施設の建物の改修工事を見て回り、
午後はデスクワークに戻るという日が続いていた。
受診した個人病院の院長が、ビタミン注射がいいというので、
それからの一ヵ月を出勤前に、早番の看護師に注射をしてもらうことになった。
その朝は、八月十九日という福音書に記された出来事を記憶する日だった。






2. 番の鳶
東の方角を目指して車を運転していくと、高台にある養護学校の上空を番の鳶が飛んでいた。駐車場に車を止めて歩き始めると、そこでお世話になっている少年がいつの間にか来て、手をつないでいる。その子が「ママ」と言うので「違うよ」と言うと、また「ママ」と言う。負ぶってやると、痩せている子は、背中でカサコソと紙袋みたいな音がする。理事長室まで行き、その子を下ろすと、その人は、生きていたときに一度だけ会ったことがある、現在の理事長の父親だった。






3. 青いルリビタキ
それは青い雄のルリビタキで、ちょっと首を揺らすと、(もはや)と言って、飛び立った。あの子どもは、出産障害で脳に損傷を受けていた。この児童養護施設で暮らす子は、ほとんどがまるで学童疎開みたいに、村へやって来たのだった。理事長の父親が、戦時中にこの村へ疎開したことの縁によるものだった。私の背中から飛び降りた小さな老人は、礼拝堂の横に立っているハイマツの陰の中へ入っていくところだった。





4. ヒヨドリの冠羽
ヒヨドリの冠羽のようなヘアスタイルの少年が、ポピーの花咲く丘を上っていくところだった。丘の上では涼しげにポプラの葉が鳴っていた。私よりも背の高くなった少年は(あなたの結婚は間違いでした)と言うのだった。あまりの驚きで立ち尽くす私を置いて、少年はひとりで丘を下りて行ってしまった。