2013年11月19日火曜日

「虚(そら)の筏」4号・5号より。

★洪水企画の池田康氏が発行する「虚(そら)の筏」4号・5号に掲載されました、作品「仮面の湖」と「夏よ」を公開します。紙版での発行は4号を「詩と思想」詩誌評で花潜幸氏、5号を「現代詩手帖」詩誌評で瀬崎祐氏に解説をいただきました。ありがとうございました。



仮面の湖(「虚の筏4号」掲載)       

 

 

 

たゆたう湖の聖なる水鏡

剥がれ落ちる表層の上に付加される仮想の仮面をもって

変革していく私という人格の人称

 

空だけが知っている空

私は木に変身することだってできる

 けれど、翻す光自身は

色彩言語の意味を知っているのだろうか

神はほんとうに「光、あれ」と言ったのだろうか

神もまた人のペルソナの下に

その仮面を隠したのではないのか

人とともに在るために

 

木を映す湖の冷ややかな水面には

空の青さも、雲のかたちも、私というものの姿も

私が見ているように彼らに見えているわけではなかったが

彼らのなかに私は混ざっていたし

私は彼らのなかに溶けていた夏よ          

 

 

夏よ(「虚の筏5号」掲載)

 

 

 

夏よ

きみは

いつのまにか過ぎていったね

 

シャラの木の茂みを揺らす風の向こう

橡の木の下のベンチに

オレンジ色の正午の光がきている

プールから上がってきたばかりのきみは

何の躊躇もなく

クローバーの上に寝転ぶ

わたしの足元で

いくつものキスを投げる、きみ

耳の産毛が光っていたね

 

わたしの指にこぼれる

木の葉のざわめきと

腕に這う幾つもの嘆きの舌

それはまるで

すべらかなパスカルの言葉のようだった

(人はきみの自然な文体を見ると、すっかりおどろいて、おおよろこびするのだよ。なぜなら。一人の著者を見るのを期待していたところを。一人の人間を見渡すからさ。)

 

そして

秋の図書館の窓ガラスに

きみのあのヒヤシンスヘアーの翳が映っていた

 

風がひどく高鳴って

ああ、もう、本など読めなくて

目を上げると

ほんとうにもう、きみはいなかった

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