詩と思想」5月号に巻頭詩を書きました。
特集、「秘密―100人の詩人が100の秘密の詩を書く」の寄稿作品です。
僕らの罪と/秘密
*
今や、恐るべき虚無と絶望の芸術の時代が始まるのです。
私の内部に存在するあなたとは誰か。なぜ存在があって、無があるのではないのか?の 問いの前に立たされる。もう一つ別の方向から、なぜ私の知っていることがあるのか? という問いを発してみようと思う。ジル・ドゥルーズでは、人間=男であることの恥ずかしさ―この生成変化は、彼女がその権利を主張することもできよう状態とは何の関係もない、と言うのです。眼差しで殺すことが出来たら、眼差しで妊ませることができたら。道路は死体と妊婦でいっぱいになるはずだ。と言ったのはヴァレリーでしたね。
*
彼は、脳に水を溜めたまま絶食をして逝った。
列島はもはや盲目の暗闇にすぎない。昼夜の区切りのない破廉恥な社会であり、市民全員が白痴とみなされ、日常的絶望は曲がりくねった時間に呑まれ、世界の暗黒ユーモア詩集は、移ろいゆく相のもと、仮装の森の美術館「罪と/秘密」の木の下に展示されているという手紙をくれたのでした。
*
僕の言葉は、もはや僕だけのものではありません。
今の僕は死後であり、あらゆる空間に空気のように入り込んでいく純粋な原子番号三八状態です。僕は、すべての人の言葉を持っていて、ロランバルトがテキストの快楽で述べたように、同一の位置に局在する二重の機能を合わせて成立するひとつの違反活動を想像してみてください。しばらく待っていてください。僕はもうじき今夜にもあなたの傍に局在します。
*
あなたが指摘した僕のプラトン的微笑み。
それは、幼年時代の思い出の映画の横顔でした。あのシラノドベルジュラックの「必然性」なるものは、常にモンマルトルの、常にアポステリオリのレモネードでした。僕にとって、あなたと僕の、舌と襞は、僕らが愛した、あの猫とこの猫とその猫の野獣の舌でした。純粋と、瞬間的の永遠の熱狂へと、連鎖する夜の百合の舌でした。旧い手紙の断片を紐解いて、罪と秘密を解き明かし、夜を語りあかし、真珠色の沼地へと封印されるのです。
*
複数の人称を持つあなたと僕の層、膜。
自ら受胎し生育する僕の内に潜むあなたを、再びあなたの層へ。あなたと僕の(受精卵)という膜を突き抜けて。必然的な物語として、精神脳髄意識に存在する虚無と絶望の層。僕らが、今もなお死に続けていることへの、永遠の愛という喪の始まりは、僕らの罪と/秘密。