八月の詩誌。
①歴程no,594。
歴程同人の名簿が奥付の前に掲載されていて興味深かった。今まで同人の方が誰なのか知らなかったので。発行人の新藤涼子氏が現代詩人会より2015年の先達詩人として顕彰された。
浜江順子さんの「黒い波」がいい。見開き4P.書いているが、この躍動と緊張の力強い言葉のリズムが途切れない。息切れしない。見事だな、と思う。小気味良いほどの、「波」を言い当てていて、言葉が波を現している。イメージなどではない。波になっているのだ。凄いな。
②叢生第199号。
関西で発行されている同人誌。
「小径」という1ページのエッセイがおもしろかった。2段組で上段が今井直美男さん、下段が秋野光子さん。編集後記も良い。散文がしっかり書けている雑誌は、詩は当然ながら良い。
③青い階段.NO.107
12P,に「招待」という坂多瑩子さんの作品がある。先輩女性詩人の作品によって知る事の一つに、お料理の知識がある。ここでもトンカツのパン粉の保存方法が、「おとこをひとり招待」することに絡めて書かれている。
パン粉をばらまいてしまった/トンカツ用に/パン粉を解凍していたのだ/パン粉は一度開封すると味が落ちる/冷凍がいい/賞味期限ものびる/あたしもずいぶんと生きてきた/冷凍保存は難しい/お金もかかりすぎる/それで会いたい人を/ひとりずつ招待することにしよう/おとこひとり/トンカツ一枚/それなのに/台所がパン粉だらけになってしまった(省略)」
④風都市.第29号
瀬崎祐さんの個人誌。ゲストは長嶋南子さん。
長嶋さんの作品からも、女性の日常や、社会との折り合いについて学ぶことが多い。「ムシ」とは作品中では、ツツガムシというムシが出てきますが、ツツガムシとは、ダニの総称です。「ツツガムシ病」という病気名を聞いたことがありますね。なんと、この病気は聖徳太子の時代から日本に存在するダニに寄生された病原体が体内に侵入して発症する病気です。「ツツガナクお過ごしですか?」の意味は「ツツガムシ病に罹らずにお過ごしですか?」から転じた挨拶なのです。
長嶋南子の作品の1連目と3連目を引用する。
「なにごともなく過ごしてきたつもりだった/そんなことはないと/わたしのなかのツツガムシが身をふるわせる/すると生家の庭にあった/いちじくの実が落ちる// 分相応になったとムシが笑う/息子は赤ん坊になり/わたしは若い女になって/おっぱいを吸わせている/つつがなきや」
いかがですか?あなたの身辺は「ツツガナキ」日々ですか?
⑤WHO'S第114号。
発行人は中村不二夫さん。
この号は、樫村高氏の追悼号で、同人の方々が故人との思い出を語っている。WHO'Sを読むのは、久し振りだ。たしかこの雑誌は、無教会派のクリスチャンであった樫村氏が編集長だった。追悼文を一色真理さんと原田道子さんが書いている。お会いしたことのない樫村氏のことが、静にこころに沁みる。
作品では、徳永大さんの「頌歌」がとても印象深かった。前半の終わりどころに、「人は独りではないのだよことばが生きてあるかぎり」とあって、お盆の日であるけれども、慰められた。
⑥ぱぴるす.112号。
岩井昭さんが送ってくださっている。おそらく「中日詩人会」に所属するメンバーの同人誌ではないだろうかと思う。
岩井昭さんの作品。「あぶくのぽっこり」より。池の水面ではじける「あぶく」に「いっしゅんのこうふくのような」希望を見出しているところが、岩井さんの詩心の尊敬するとこと。それは、なんでもない日常の永遠を慈しむ穏やかな心情があればこそ、「水中を浮上する/あぶくのなかで希望がふくらんで/その過程は仮定ではない/いっしゅんのこうふく/のような」と見詰めているのだ。
⑦ERA.第三次4号。
川中子義勝さんが編集・発行する、中堅から熟練までの詩人たちの実力が示されているなあと思う雑誌。しばらく読んでいませんでしたが、第三次となって出発して4号。
池田順子さんの「春と棺」。
「ちょっとそこまで と/出かけたきり/父は/帰ってこない/忘れものですよ/あとを追いかけた母も/帰ってこない」
そんなふうに、だんだん誰もいなくなっていく。物語でもなんでもなく。わたしが暮らす街もそんなふうに人がいなくなり、空き家になっていく。人は死して返らず。
「去年の春/一昨年の春/うっすらと降り積もりはじめる/ものたちを/棺に収めて」