小島きみ子|星に呼ばれて
暖かい布のように 私は夜を身にまといたい
その白い星と その灰色の呪いとともに
昼の鴉を追い払う そのたなびく先端と
孤独な沼沼で湿った その霧の総飾りとともに
(ゲルトルート・コルマル・「変身」より)
星の声が落ちてきました 見えてしまう人には見えてしまうのでしょうか あなたによばれて 母によばれて 湖に出て小舟をこぎました
小舟を降りて 湖のほとりを あなたとの思い出の 白いアルバムを抱えて歩いて行くと 母はもう準備をしていたのでした わたしの長男が生まれて ひとつきが過ぎたので 神社へお宮参りに行くと言うのです
子どもに着せる 水色のベビードレスと わたしが着る 夏の着物を 桐の箪笥の前に出して選んでいたのです わたしの姿を見つけると すぐに母は「お風呂に入れなくちゃ」と言うのです 子どもはまだとても小さいので 新米ママのわたし一人で世話ができそうです ああ わたしは どうして ここでこんなことをしているのだろう
子どもに 産着を着せて 藤籠に下ろすと もう寝息をたてている 庭に落ちる樹木の翳が濃くなると さっきまで世話をやいていた母が それらの翳のなかに入っていく 木の葉の翳よりも小さくなった母が青い闇のなかで息をする 「七五三はどうするの」「まださきだから」「それまで生きていられるの」「だいじょうぶだから」「そう」「そうよ」
とおくで息子の声がする ママ、ママ! ああ おかあさん わたしたちはだいじょうぶだから ここで、待っていて あなたによばれたのか 母によばれたのか わたしは もう 帰らなくちゃ
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