冬の形見
小島きみ子
白い
ノートを開く
と、
(そこ)は
叔母の家
あなたがつけた家計簿を読む四十九日
桐の箪笥の前に、明日から使うかのように投げ出されていた
手編みの藤色のショール
東窓から射し込む木漏れ日に
ススキの穂波のように揺れる、モヘア糸
見覚えのある、それは母とお揃いで
長男の妻であった人が、長い冬の陽を受けて
病床で編んで、二人の義妹に贈った形見の品
そして、いままた新しく人は逝いていった
滅んだ肉体が残していった、形見のそれは
水を含めば、再び蘇る種子のような物質の記憶となって
手渡された
病院の駐車場から屋上を見上げた霜月
白いシーツがはためくその前で叔母が手を振っていた
(ここから、見送るから)と、見送られたその夜
叔母は胸の上で家計簿をつけながら旅立った
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