2017年11月28日火曜日

(あれは詩だったかもしれないのに)




(あれは詩だったのかもしれないのに…)


叔父は死ぬ前に《日常的絶望は曲がりくねった千曲川(チューマガワ)に呑まれ、
黒いユーモア詩集は、「移ろい行く相のもと」バロックな森の腐葉土に埋められた》と、手紙をよこした。


そんなことをSとも話しながら、枯れ草のうえに舞い落ちた桜の葉っぱの写真を撮る。雑誌の表紙に使うのだ。彼と、ダンテの煉獄の話をする。研究の進み具合も尋ねる。


近いの?あのニュースの場所。
そうね、行ってみたい?
…いや。内容があまりに猟奇的だったからね。
でもね。川端康成の散文を読めば、安部定だって、すごく普通な人だったわけでしょ。
純粋な愛情って、「単純な」って意味ではないもの。
「詩」ってどこに在ったのだと思う?
ねえ、S、黒いユーモア詩集のこと覚えている?
ここはね、叔父の手紙を燃やした場所よ…



あれは「詩」だったのかもしれないのに…
腐葉土の下にいくつもの言葉を埋めた…
叔母の薬指にはめられていた指輪も心臓に埋められていた小さな機械も。

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