2008年12月13日に読んだ詩集のこと。
吉野令子詩集『その冬闇のなかのウェーブの細肩の雪片』より(無歴の墓地から)を紹介したいと思います。ザレマという名詞が出てくるのですが、どうなんでしょう、わかりません。読んでみましょうか。・・23行目で「とはいえザレマの羽はうとましと隣接し」とありますから、蝶のようです。・・・・この詩のいちばん凄い行は、52行目なのです。そこだけ出しては、と思い前半を引用したのです・・・52行目は (麻の袋に入れて記憶する 指) とあります。「記憶する指」は麻袋に入っています。切断されているのでしょうか。ザレマは人を殺すためのスイッチを押すことを拒んだのでした。けれども「鎖の腕にばくはつぶつをうばわれておおくの歩行者のいのちがうしなわれた」のです。その指ですね。これは、今年の6月の秋葉原の無差別殺傷事件の光景とも重なります。この作品は2007年8月に「ガニメデ」に発表したものです。社会事象を預言したような場面です。
・・・人は絶望のなかで、きょうの命を延ばしているだけなのでしょうか。希望を、明日の光を、どのように見出していけばよいのでしょうか。雪降る冬闇は、深くて、神さまはどこを歩いているのでしょうか。
(無歴の墓地から) 100Pより引用
1(あのひととの出会いをねがっていたあなた
あなたとの出会いをねがっていたあのひと
2(――ところでこのときはたちのザレマは
どこにもどのような居場所がなかった
おりしも通りかかった幼児が質問をした
なぜ寒い庭にいるのと静にいった
働く場所がないからと仄かな声でこたえた
そこは世界の底で足元に冷たい淵があった
――ところでこのとき疲労していたザレマは
錆びたビデオテープを手にしていて
そこには 狂言的で 悲惨な
満月の下での 集団の テロ活動が
丹念に細部まで映し出されていたが と
このとき凍てたほのぐらいひかりに
かこまれた画面の上を
ざらついた ヴェールの
うすあおい テロップが 流れた
あなたはわたしの心のなかにいる
このことを記憶していてほしいという
とおい線のこえ 死をはばむ木の葉
だからこのとき疲れた蝶のザレマの心に
肯定へと裏返ってゆくものがあった
とはいえザレマの羽はうとましと隣接し
とはいえ憑かれた触覚の重量の減少はなく
だからふるびた舗石のうえに立って
宙に浮く目を残して
ひとりで 耐えていた
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