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詩誌『エウメニデス第三期』45号に発表した小島きみ子の作品です。
詩誌『エウメニデス第三期』45号に発表した小島きみ子の作品です。
掲載したものとは、行の構成を変えてあります。
(sacrifice)小島きみ子
ベランダに投げ出されたプランターの土のなかで僕の眼は育っていったよ。
僕はママが去年の秋、土に埋めたブルーヒヤシンスの球根だったのだからね。
ママは僕を土に埋めたことも忘れていたね。それでも僕はママをずっと見守っていたよ。
ママは僕が嫌いなモンスターと暮らすようになってしまったのだからね。
僕が土の中に埋められたとき。ママの瞼が紫色に脹れていたり髪を梳かさずに会社に出かけたりヒールの踵が剥げていたりしていたね。
ああママ。僕はどんなに苦しかっただろう。でも、僕はくじけなかったよ。僕が暮らしたプランターには僕と同じ眼を持った子どもたちがいたからさ。いつかママを助けに行く。そのことが僕たちの共通の願いだったからね。ママ、とうとうそのときが来た。僕らは土の中から一斉に眼を上げた。どんな眼かって? ルドンの画を思い出してみてくれないか。マッシュルームみたいな眼だよ。地上に出ると僕らは四人いたよ。僕らは青銅の剣を携えた精霊の騎士だったのさ。朝の光が射した瞬間に奴を一突きで仕留めた。それで終わった。
ママを僕らの王国に連れて行くだけだった。僕らの背中にはジェラルミンの頑丈な羽根が生えていたしね。ねえきみたち。光のなかをママと僕らが凱旋する姿を見なかったかい?
ママ、覚えている? 冬の小学校のプールには青いビニールシートが被せられていた。まるでそこに死体でもあるかのように。けれどもあるのは、ただ舞い落ちた枯れ葉だけだった。ふふっ、てママは笑う。ママは僕を怖がらせるのが好きだからさ。でも僕は怖くなんかなかった。
ママ、もう僕とは遊んでくれないの? ここは気持ちが悪くてもう嫌だよ。ママ、どうして僕はこんな高い木の上に寝かされているの? 僕は(sacrifice)なの? それだから、僕がママを守るためにこうして差し出されたのかい? いいよ、僕は何だってするよ。ママお願いだからちゃんと聞いて。僕はいったいどんなタブーを犯したと言うの? 教えてママ。僕は、何も怖くはないよ。いつも僕はママを見守っているよ。今は、もっとママの傍にいるよ。聴いて、僕の心音を。僕は、もう一度ママの子どもなって生まれ出るのだから。
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