2019年11月23日土曜日

星に呼ばれて










星に呼ばれて

星の声が落ちてきました 
見えてしまう人には見えてしまうのでしょうか 
あなたによばれて 母によばれて 
湖に出て小舟をこぎました


小舟を降りて 
湖のほとりを 
あなたとの思い出の 
白いアルバムを抱えて歩いて行くと 
母はもう準備をしていたのでした 
わたしの長男が生まれて 
ひとつきが過ぎたので 
お宮参りに行くと言うのです
子どもに着せる 
水色のベビードレスと 
わたしが着る 
夏の着物を 
桐の箪笥の前に出して選んでいたのです 


私の姿を見つけると 
すぐに母は「お風呂に入れなくちゃ」と言うのです 
子どもはまだとても小さいので 
新米ママのわたし一人で世話ができそうです
子どもに 
産着を着せて 
藤籠に下ろすと 
もう寝息をたてている 
庭に落ちる樹木の翳が濃くなると 
さっきまで世話をやいていた母が 
それらの翳のなかに入っていく 
の葉の翳よりも小さくなった母が青い闇のなかで息をする


 
「七五三はどうするの?」
「まださきだから」
「それまで生きていられるの?」
「だいじょうぶだから」
「そう?」
「そうよ」


とおくで大きくなった息子の声がする 
ママ、ママ! 
ああ おかあさん 
わたしたちはだいじょうぶだから 
ここで、待っていて 


《暖かい布のように 私は夜を身にまといたい
その白い星と その灰色の呪いとともに
昼の鴉を追い払う そのたなびく先端と
孤独な沼沼で湿った その霧の総飾りとともに》
    (ゲルトルート・コルマル・「変身」より)









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