2016年10月28日金曜日

浜江順子詩集『密室の惑星へ』(思潮社)



                                  浜江順子詩集『密室の惑星へ』(思潮社)




 所収作品二十五篇の配置の仕方がとても整然としています。Ⅰ~Ⅵの作品は、散文と行わけが交互に混ざって進んで行きます。Ⅰでは散文・行わけの順。Ⅱでは、行わけ・散文の順。自在に作品が創作される巧みさは、流石です。彼女の特徴は、比喩で表現するというよりは、「オノマトペ」を巧妙に扱って韻を踏んでくる。語尾が特徴的で、動詞の下一段、下二段活用で次の行に跨る。それが、日本語の古来の話し言葉の特徴をも掴んで、ユーモアをも感じさせる。リズミカルな展開は、語尾の活用のスピード感と、オノマトペへの連結の見事さだと思う。私のなかでのオノマトペの詩人は、中也、朔太郎、心平ですが、浜江順子さんも加えたいと思います。それほどに見事です。六十四頁「泥眼」。


  いわれのない目つきにキリキリ縛られ(一行目)
  ぐらぐら落ちる真実が(十二行目)
  ぐじゃぐじゃのとろとろの/こんにやくあたまだからなのです(十七行目)


 六十七頁の「ぬっ、ぬら、ぬる、女殺油地獄」も凄い作品です。この作品はこの詩集のなかでも一際オノマトペが効いているし、言葉のスピード感も半端ではない。下一段活用、下二段活用の語尾の迫力が、次の行への跨りの速度を加速させる。


  たれも持っている/たれも止められぬ/たれもすべて押しとどめられぬ//危うい殺意の狂い咲き/たれ流し/きりり、きりきり、殺意の喉仏//たつ、たつ、たつ、たら、たら、たら、たれ、たれ、たれ、/たつ、たつ、たつ、たら、たら、たら、たれ、たれ、たれ、//たれた母の乳房、/蹴散らし/たれたおのが心、憎み/たれた油、ひたすら飲み込む/極道の与兵衛/人妻のお吉/地獄の底無し油沼へ、投げ出され//


全篇引用してその面白さを知っていただきたいところだが、ここまでとする。「女殺油地獄」は、『名作歌舞伎全集』第一巻を参考文献としていることを付け加えておきますので、読んでみるといいかもしれません。