2014年1月20日月曜日

楓の小枝を立てて

  楓の小枝を立てて                小島きみ子





春が来ると子どもたちは楓の木の下に、楓の小枝を立てた。
落ちて死んだ小鳥のために。
すでに別の物質になってしまった羽毛をさすりながら、
「死」は「冷たく固まる」のだと掌で覚えた。
小さな、小さな。
穴を掘って、穴を掘って。
土をかけて、土をかけて。
楓の小枝を立てた。
楓の木の下には、小さな楓が芽を吹いて、
小さな楓の森ができた。
枯れるものも、成長するものも、
それぞれの掟にしたがって命を育んできた。
「土は偉大だね」
形はなくなるけれど、別の命にして返してくれるのだもの。
薔薇が咲き、百合が咲き、豆の蔓が伸びて、
紫蘇の葉が茂り、葱も芽を出す。
朝の空が明るくなった。
小鳥の声が甲高く早口になって。
(卵を生んだのだ、きっと。)
明るくて、少しヒステリックで。
(雛が孵ったのだろう。)
陽が昇るのが待ち切れずに騒ぎ始める。
(餌を運んでいるんだ。)
もうじきだね。
子どもたちが屋根のうえから飛び立つ。
(もうじきだ。)
(わたしの子どもたちも巣立って行く。)
春は逝きながら。春は新しく生まれる。
小枝を立てて。
小枝を立てて。
新しい春を。
受けとるために。





★今は、まだ土は凍っていますが、春になるとハナカエデの木の下には、秋にプロペラの種子を飛ばした、種が芽吹きます。ぐんぐん成長して8月には30センチくらいの幼木になります。けれども、この種が芽吹く頃は、小鳥たちの産卵期で雛も孵ります。屋根から落下して、硬くなっている雛のお墓もこの土のしたです。そこから、種は芽吹きます。自然は、命をこうして返してくれる。私たちが命を守るためにできることは、この自然の循環を守ることではないだろうかと思っています。小さな庭を、いつも大切にしていること。そんなこと。






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