2019年10月26日土曜日


あなたへの秋の長い手紙(エウメニデス49号より)
小島きみ子


十一月五日
古い記憶はあらゆる領域に「変形」しながら顕れる。この「変形」が見えなければ、それらは別物として見誤られる。このとき人はその顕れを「新しい」と呼ぶ。(フランシス・ピカビア)彼は不安定ながらも友好家で、チューリヒのトリスタン・ツァラを、いちばん強く、パリに引っ張ったひとのようにも思います。ピカビア展で朗読されたらしいのです。ツァラの年表に「 ピカビアの展覧会のために「Dada Manifeste Sur l'Amour Faible et l'Amour Amer(弱き恋と苦き愛についてのダダ宣言)」が書かれる」とあります。それのことでしょうか。


十一月七日
「(シュルレアリスム)という言葉について」シュルレアリスムのシュル(sur)は「超」を表すフランス語の接頭語。シュルには「超える」「離れる」という意味と「過剰」「強度」を意味する場合があります。シュルレアリスムは後者を適用します。日本では「シュール・レアリスム」と「シュール」と語句を伸ばして誤使用されています。又、「シュル・レアリスム(超+現実主義)」と途中で切るのは間違いです。シュルレアリスムは一つの言葉であり、切るとすれば「シュルレエル(超現実)」+「イスム(主義)」と切るのが正しい切り方。「超現実とは何か」。現実から離れて現実を超えてしまった現実ではなく、現実の度合いが強いという意味を含んでいます。「強度の現実」「現実以上の現実」と考えるのが適しています。シュルレアリストたちは、現実を離れた別の世界に「超現実」があるのではなく、現実の世界に「超現実」は内在し、現実とつながって隣接した世界であると考えました。


十一月九日
「シュルレアリスムと無意識」について、オーストリアの精神分析学者フロイト(18561939年)は、人間の心は三層(意識、前意識、無意識)の構造で成り立っていると考えました。意識 (今、気づいている心の部分)前意識(いま気づいていないが、努力によって意識化できる心の部分。「夢」や「狂気」となって現れる)無意識(抑圧されていて、意識化できにくい心の部分)超現実主義者たちは「無意識」の存在を前提として、美や芸術や人間の問題を考えなければならないと考えました。芸術的創造は「無意識」の内に宿っている。「無意識」に創造の源泉を見て、そこから湧き出るイメージを形象化(作品化)しました。フロイトは、「夢」は前意識の産物で、無意識にあるものが少し形を変えて前意識まで上がってきたものが「夢」だと考えました。夢は無意識を知るための大きなヒントであり無意識からのメッセージなのです。超現実主義者たちは、夢の世界を人間にとって最も制約のない自由な世界であると考え、夢と現実が出会う「超現実」こそ、自由な創造を可能にすると考えました。シュルな水色の自画像。この画は知らなかったです。背景の水色は溶け出した感情か、外からやってきた何かが、服を通して内臓へと染み渡っていくのか、冴えた同じ色の瞳もいいです。


十一月十日
こんばんは。『感じる脳』アントニオ・R・ダマジオ著の読書ノートを読みました。購入して読んでみようと思います。「情動は「身体」という劇場で、感情は「心」という劇場で、それぞれ演じられる。たとえば、われわれが何か恐ろしい光景を目にして恐れの「感情」を経験する場合を考えると、「身体が硬直する」「心臓がどきどきする」という特有の身体的変化が生じるが、身体的変化として表出した生命調節のプロセスが、ダマジオの言う「情動(この場合、恐れの情動)」。一方、脳には、いま身体がどういう状態にあるかが刻一刻詳細に報告され、脳のしかるべき部分に対応する「身体マップ」が形成されている。そしてわれわれがその身体マップをもとに、ある限界を超えて身体的変化が生じたことを感じ取るとき、われわれは「恐れの感情」を経験することになるのではないだろうか。身体マップには、現す事のできないものが記憶されている。これが、古い記憶の変形で、意識を飛ばしていく作業を助けているはずと思う。


十一月十一日
寂しい黄昏です。くらい日曜日にヴィスワ川の名前を知って、この川の悲しみを暗く思います。ワルシャワ市街地を目前にしながら、ソ連軍は進軍を停止しヴィスワ川を渡らなかった(ポーランドの悲しみですね)それにしても、秘密とは何か。「むしろ私たちは、秘密を日常的なもののなかに再認する程度に応じてのみ、その秘密を見抜くことになるのである。その際私たちが援用するのは、日常的なものを見抜きがたいものとして、見抜きがたいものを日常的なものとして認識するような、弁証法的な光学である。(ベンヤミン『シュルレアリスム』より)」あなたへ。きょうは、夢の途中で声をかけあいましょう。川の名を忘れずに。



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