十三夜の花たち

夜になると花は眠るの？
いいえ。
目覚めるのです。

みどりのゴールドクレストの輝き。
樹液が立ち上がっている。
起きてと囁いている。

　　ハナカンザシがベビーパールのように光っているね！

　　　赤紫のジュリアンが背伸びしているわ。
　　　〈わたしも眠ってなんていないわ！〉

　　待って！僕にも光をあてて！
　　僕だって芽吹いているよ！
　　僕は、アカメヤナギダヨ！

わあ。まぶしいわ。
誰が来たの？
わたしたちは、チューリップですよ。
こんばんは！この家にきて１週間ですよ。
でも、もうすぐわたしたち。
消えるのです。
きょうは、お別れの晩です。
さよならを言いにきたんです。
みなさん。
ありがとう。
今年の冬は、みなさんに会えて嬉しかった。
昼間は、みなさんたちとは離れて出窓にいました。
寒がりなんです。
きょうの昼の陽射しで、満開になりました。
「いのち」が満開になったのです。
明日の昼に、もう一度満開になります。
そして、消えます。
覚えていてね。

　　もちろんですよ。
　　もちろん、チューリップさんを覚えているわ！
　　わたし達もあともうすぐですよ。
　　寂しがらないで！
　　元気をだして！

そうですよ！
元気をだして！
あ。シクラメンさんだ。
ええ。
去年の暮れから咲いている、いちばん長生きのシクラメンですよ。
みなさん。今宵は語り明かしましょう。
歌い明かしましょう。
ピンクと赤紫のジュリアンさん。
三色のアルストロメリアさん。
芽吹いたばかりのアカメヤナギさん。
静かな無口なデンドロビュームさん。
やさしいやさしいハナカンザシさん。
森の妖精のゴールドクレストさん。

〈チューリップさん）さあ、元気を出して。
夜が明けるまで、歌いましょう。踊りましょう。
ほらね。
元気がでてきたでしょ。
みなさん。
今宵はなんて、美しいのでしょう。
ほらね。
十三夜ですよ。
窓から、月の光！
月の光を浴びて浴びて！

　　十三夜のお月さま！
　　ヤアヤア、うつくしいお花のみなさんこんばんは！
　　さあさあ、歌いましょう。
　　踊りましょう。
　　朝が来るまでご一緒に！
　　ご一緒に！！

　　（十三夜の花たち。）おしまい