2018年11月3日土曜日

詩で表現される言葉は、どのような動作を伴っているのか



二〇一八年四月以降に届いた詩誌については、主にSNS.twitterで述べてきましたが、一月から三月三一日までに届いた詩誌について、「詩で表現される言葉は、どのような動作を伴っているのか」と、いうことを考えながら詩誌の詩篇を紹介します。hotel2章 no.41 モーアシビ 第34号/風都市 第33号/書肆侃々 no.29/カラ20号|5誌について。 



① hotel2章 no.41

「特集 怪異」海埜今日子の作品「死相」。またたいて、にじむ、暗さだ。に始める作品が、死期の迫る人の異質な影に気づいてゆく。同級生、父、飼い猫。テレビ俳優。死相と影。死の気配。《生は死とともにあることに気づいたからか》と、言葉に表すと何気ないけれども、死相と死の影を、気配で感じ取るとき、わたしたちの現在は確実に死という永遠に近づいているのだ。



    モーアシビ 第34号。

詩と散文と翻訳(露文)で、それぞれのジャンルの書き手が異なる。14人の書き手による同人誌。巻頭詩は北爪満喜さんの「神無月に(201710月)。白鳥信也さんの「とぜん」という作品が、東北の郷土の言葉であるのか妙に重くて懐かしく、意味は分からないが、なぜか声がきこえてきて、言葉とは人間の動作と声と、記憶の中に生きているのだ、と思った。



    風都市 第33

瀬崎祐さんの個人誌。ゲストの中本道代さんの作品「暗渠」。「幼いころに自分を支えてきたものは、見えるものを見ないという不安定な意思だった それは 見えないものを見たいということでもあった 聞こえるものはどこにも存在していないとも 思っていた だから 聞こえないものが存在しているのか確かめようと 必死に耳をすませていた そんなときに世界はふっと透明になるのだった」。とても怖しい詩だと思う。現実は見えるものと、聞こえるものとで、出来ている。幼い日と書いているのは、若い日と読み替えていい。ここでの記憶はアオキさんの生き急いだ詩と生活に関わっているからだ。生きていたのは、見えていたアオキさんとのことではなく、現在の見えないアオキさんとの記憶によって此の詩の世界は生き生きと描かれているのだ。



    書肆侃々 no.29

詩と散文の雑誌で、後半に詩論があって、吉貝甚蔵さんの論考をいつも感心して読んでいる。詩では、今号は船田崇さんの「窓の外には」がとてもロマンチックで楽しく読んだ。この作品が若い頃の想い出の、影なのかどうかはわからないけれども、言葉の言い回しがなぜか懐かしい。懐かしいということは、なんと読み手の勝手な映像が現れるのだった。すつかり、喫茶店でともに彼女の影になって「薄まったレモンティーを掻き回している」私の指があるのだった。三連目に「あの日/なぜあなたは言ったのか/世界は美しく踊ってるだけだって/薄まったレモンティーを掻き回している/ぼくたちの話す権利と黙る義務」。六連目「ぼくの言葉は雪となって/あなたの唇の先でとろけていくだろう/ぼくたちの秘密の公園を覗き込んだ」。なんだか、曲をつければ良い感じの歌になりそう。


⑤カラ20

小林弘明さんの7行構成の端正な散文詩「旅日記」と「物への哀悼もしくはアレゴリーの深み」という散文に注目した。特に、紙数の規定があるのだろうと思える、短いものだけれども、その冒頭でとても興味深いことを述べている。市村弘正の『「名付け」の精神史』からの孫引きになる。「(・・・)その死せる物への哀悼を、物に対して、あるいは同じ事だが、その物と人間の関係に対して、向けるべきではないか。」と引用した上で、「物は常にあるのではなく、死んだもの、失われたものもあるが、ここでの物は追いやられ捨てられたような物であり、まさにそれらを哀悼することを忘れられていると解釈すべき一文なのか」とある。折しも、2011/3/117周年追悼の慰霊が報じられている。三月十一日だった。一夜が明けて七百人もの遺体が打ち寄せられた浜辺には、人間と同じように命を失った物が打ち寄せられたはずだ。当時、「瓦礫は瓦礫ではない。まだ発見されていない人々の衣服や遺体が混ざっている」と述べたニュースがあった。「失われたものへの哀悼」は、「郷愁に差し込む言葉であり、それへの亀裂となる判じ絵に見られることである」とし、後半は宗近真一郎の『リップヴァンウィンクルの詩学』へ言及する。〈換喩と隠喩は連続している。奥が在るというのかいわないのか。ポジションが分断されるのだ。暗喩は解釈(奥)を呼応する。解釈を求めないというポジションは「換喩」へ帰属する。〉最終行、「時間と非自己による死によって、刻印と解釈されることで分断線を引くものであるのか、その可能性は非人称によって物への哀悼にも重なる」。

註〈 〉は宗近真一郎の引用。鉤括弧は小林弘明の本文。






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