2021年1月6日水曜日

詩 ひそやかな星のように

 2011年に詩集を発行した翌年に発行された、鈴木ユリイカさん責任編集の雑誌です。2021年1月6日に、201316日のFB.記事の1つとして「思い出」が送信されてきたので、ブログに作品を公開します。雑誌は、バックナンバーがあればアマゾンで購入できます。

鈴木ユリイカさんが詩誌『somethinng16』http://www.kankanbou.com/books/poetry/something/something16
の「
something blue 」で小島きみ子の作品「ひそやかな星のように」について「いのちは星のように」という文章を書いてくださいました。手にとっていただける機会がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。






*「ひそやかな星のように」

いつの間にか雨が止んで、灰色の岸辺では、春の初めに咲く花の木がそよぎ始めた。その蕾は次第に膨らんで、ひそやかな星のようだった。冬を連れ去っていく風の音を聞きながら、枯れ草の上を歩く時、白い雲に流された影を、私は、鳥が獲物を追う目になって、影のなかを見つめる。私たちは、見えるような愛を求めていたのか。空は、泣きじゃくる子の波打つ髪の毛のように揺れていた。

ふと、懐かしくて、影のなかに向かってなまえを呼ぶとき、きっと言うのだ。それも明るいきっぱりとした声で。(僕)はあなたの思う通りにはならない。(僕)は(僕)を守るよ。それでも、どうか元気でいてください。(僕のmama)と。私は、再び影のなかの、草の種のような、小鳥の目になって言うのだ。私の母へ。(mama私は、あなたの思う通りにはならない。それでもどうか元気でいてください)

かつての私たちが暮らした、キッズクラブのその家では、放課後の子どもたちが、ボランティアの青年と遊んでいた。黒い髪の少年たちのなかに、ブラウンの髪の少年が混ざっていて、彼は誰よりも速く野芝の上を、カラマツの木々の間を、走り抜けて行くのだった。その枯芝のなかに、小さな札と囲いがあった。「花の種が(芽)を出します。踏まないでください」私の影の上に重なる芽の、青い影を踏んだのはだれ。

森の小道を、別れてゆく人と散歩する。まだ花の咲かない桜の樹皮は、夕べの雨で濡れて、新しく生まれてきた子どものように、光った息をしていた。私たちは、樹にもたれて、苦しめられた仕事のいろいろなことを思い出す。あなたは、また再び言ったのだ。きっと戻ってくる、また一緒にやろうって。その時、つややかに光る木の枝を折るように、白い雲の間を渡って行ったのは小さな獣、それとも辛夷のはなびらだったのか。

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