2019年9月14日土曜日

小詩集  魅惑する星月夜のバロック的な詩群


















魅惑する星月夜のバロック的な詩群



ⅰ mama教えて。



mamaベランダに投げ出されたプランターの土のなかで僕の「眼」は育っていったよ。僕は、mamaが去年の秋、土に埋めた花の球根だったのだからね。


mamaは僕を土に埋めたことも忘れていたね。
それでも僕は、mamaをずっと見守っていたよ。mamaは、モンスターと暮らすようになってしまったのだからね。mamaの瞼が紫いろに脹れていたり、髪を梳かさずに会社に出かけたり、ヒールの踵が剥げていたり、ああmama、僕はどんなに苦しかったか。


でも、僕はくじけなかったよ。
僕が暮らしたプランターには、僕と同じ眼を持った子どもたちがいたからさ。いつか、mamaを助けに行く。そのことが僕たちの願いだったからね。


そして、とうとうその時が来た。
僕らは土の中から眼を出した。どんな眼かって?ルドンの画を思い出してみてくれないか。奴は、僕らをキノコだと思っていたらしいよ。僕たちは地上に出てみると七人いたんだ。僕らは、青銅の剣を携えた精霊の騎士だったのさ。


光が射した瞬間に、一突きで仕留めた。
それでお終いだ。あとは、mamaを僕らの邦に連れて行くだけだった。僕らの背中には羽根が生えていたしね。頑丈な羽根さ。光のなかをmamaと僕らが、凱旋する姿を見なかったかい?














ⅱ (SUPERHUMAN



ねえ、mama覚えている?
小学校のプールには青いビニールシートが被せられていた。まるでそこに死体でもあるかのように。あるのは、ただ、舞い落ちた枯れ葉だけさ。


ふふっ、てmamaは笑う。
mamaは僕を怖がらせるのが好きだからさ。でも僕は怖くなんかなかった。mamaもう僕とは遊んでくれないの?ここは気持ちが悪くてもう嫌だよ。


mama知っているかい?
イタリアでは、人間の男性の精子をラットの精巣で精子の芽を出して、人間の女性の子宮に戻して人間の子どもが誕生した。女性の卵巣の一部を取り出し、マウスの体内に移植し、卵子の前段階である「胞状卵胞」までに育てることに成功している。人は人を作れるのだよ。


人は、SUPERHUMANという「カミ」を作ろうとしている。
人を作れる技術を持った以上、「神が人を作った」という倫理が修正されない限り、この社会のモラルハザードの修正は不可能さ。実体のない幻想が現実の選ばれない時間のうえに発生しているからさ。














ⅲ 「乞食者」(ほかひびと)に祝福あれ!




どうして僕はこんな高い木の上に寝かさられているの?
僕は(sacrifice)なの?桟敷の起源は犠牲の神事に発しているって?それだから、僕がmamaを守るためにこうして差し出されたのかい?いいよ、僕は何だってするよ。


mamaお願いだからちゃんと聞いて。
表層秩序の不条理に対して、抽象的な敵を破壊するエネルギーは新しい原理を生み出すことができるって?
現実の場面で、幻想の恐怖を破壊することは「異常の心理」に他ならないって?


だからといって、mama
僕はいったいどんなタブーを犯したと言うの?
そうさmama
僕は、中世に生きた精霊の生まれ換わりさ。
異郷の地からやってきた「乞食者」(ほかひびと)さ!











ⅳ 私はシダになりたい




それは、閉じた眼の裏に茫茫と広がる草の眼だ。
森の樹下で少女の白い皮膚が、緑の草の実に見つめられている。
シダの穂先が靡いている。
夏よ、おまえはいつのまにか過ぎていったね。
私のなかに熟さない言葉を残したまま。




移ろいやすい光が、濃く薄く、薄く濃く、
生命記憶の曲線の上を這っていくのだ。
そして私という「今ここに在る」人間の輪郭と重なるとき。
あたらしいモードがやってくる。
おお奈落の底で生まれ変わった私の精霊たち。
夏よ、おまえは見えない梢から、ここへやってきて。
すべらかなパスカルの言葉で、私の髪を撫でていったね。















光の帯




真実の口に噛まれた日、を笑いながら真似をしたね、
そしてマンゴージェラートを食べた後で何度もkissをした。
薔薇色の雲が低く垂れ籠めていたね。かまわない、って思った。もっとほかに、何て思えば良かった?シシリエンヌをリコーダーて演奏したのも、ユリノキ(Liriodendron)の花が初めて咲いた日だったから。




「歴史」の向こうから、激しくやってきては過ぎ去っていくもの。髪をつたう雫のような、ペイズリーの絨毯のうえを足音もなく歩いて行く人の、雲の彼方へ消えて行く、薔薇の匂いのようなものが、あなたからの手紙の文字のうえに籠められていたよ。経験の知の、変容しているものの輪郭の、その一瞬。冷たい夜の、激しい雨風とともに、開いたノートの文字の上に駆け上がってくるもの。雲の匂い。その記憶のすべて。




昼間の疲弊した肉体の現実と、「虚妄の生」の「夢想」の「はざま」から、傷む傷口を保護する体液のように滲出してくるもの。
現前する意識的生は、現前しない具体的生へのきざしとして、
真の現実性をもつ限りにおいて、現実の生となるだろうから。
光の帯のうえに再び呼びだされてくる、魅惑する糸杉と星月夜の、目くるめく冷たい歓喜のようなもの。歴史の本性の記憶が、なつかしく蘇ってくる日。





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