2020年2月6日木曜日

掌篇 月のひかり










「月の夜のスズラン」

    
 ⚫月のひかり
月のひかり。
星のひかり。
の、吐息を聴く。
草の、花の、うえに落ちる、
朝の息の、冷たさ。
儚い人の命の夢のつづき。
遠い吐息を聴く。
あなたの言葉のひかり。
月のひかり。
星のひかり。
夜の、言葉の、熱さ。





             「高原のウバユリ」



  惜夏に、             


八月の、
凌霄花咲く、
束の間の、
幸福に、
眼を、
細めて、
いる間に、
花は咲き、
散り枯れて、
人は、
昨日からの、
一続きであったかの、
ように、
喜びと、
絶望の、
坩堝の中に、
落ちて
もはや、
戻る事はできない、


           「7月のプラム」




  花と緑の暮らし       


私は、
小さな庭を
持っています。
花や野菜に、
花蜂がやってきて、
次々と
花は咲き
散って、
種子を
飛ばして、
限りある命を
終えていきます。
野菜もやさしく
やわらかな実を、
提供してくれます。
花壇の世話をしていて
思うのは、
私たちは
困難を知るために
生きているのだ
と思うのです。
困難を乗り越える
鍛錬を獲得したとき、
物の命の
永遠が
やってくるでしょう。






             「ワスレナグサ」




  幻の姉       


ブルーベリーの、
丘に暮らす、
幻の姉は、
天国から、
帰って来たばかり。
(私は坂を
まっすぐ行くので、
あなたは
左に折れて行くのよ)
と言って、
消えた。
(お元気でね)
(お姉さんも)
綿飴のような、
小さな手を
振って、
二度と、
振り返りは
しなかった。




         白薔薇「アイスバーグ」





  白く鮮やかに    


ふりそそぐ
夏の光の
昼を過ぎて、
急な
夕立のあとに
母は逝きました。
薔薇が咲く
夢のなかで、
朱色の
瞼の裏を
漂って、
紫の波が
押し寄せて、
薔薇の声がした。
(天国には愛があらう
地獄には力がある)
私は私の影と。
小さな
黒い箱の中で眠った。





           「雑木とクローバーの木陰で」








⚫  走り書きのように    


樹下でゆれているのは 光
人間の(愛)に試練を与えたから

濡れた
灰色の羽毛が
草に
突き刺さっていた
雛鳥の
嬉しい
巣立ちだった

悪戯な猫
おまえが
狙った雛が落下して
あれから
じっと待っていた

楓の木に
いつかもう一度
小鳥が
巣作りをして
雛が孵る日を

いつだったの?
知らぬまに
たった一枚の
走り書きのように






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