2020年5月8日金曜日

六種類の花の物語


六種類の花の物語


1.May first の鈴蘭



May first
みどりの光り輝く日。
あなたが三四歳の五月一日に私は生まれました。
屋敷林の唐松の樹下には白い鈴蘭が咲きました。
わたしが十八歳の夏に、
あなたは天国へ逝ってしまった。
心配しないで心配しないで。
おとうさん。私は元気ですから。






父へのレクイエム「野ばらを摘みに」
詩集『言葉暦』より。

写真の説明はありません。








2.誰も気づかない午前二時のバラ


午前二時をバラは知っているのですね。
香りを知る人を喜ばせようと待っていたのでしょう。
特別な日のバラになるためには、
特別な準備が必要で、
剪定が済んだ冬のバラの木に語りかける。
「香り高く咲くのよ」と。
きっとこのバラも「咲きましたよ」と、
バラの香りを届けたかったのだと思います。
私にも届きましたよ。
午前二時のバラの香り。










3.藤

紫色の藤は坂道を上る途中に咲き零れていました。
むせ返るような花の香りと、
蜜を求めてやってくる蜜蜂の羽音は、
bee)の連続音。
あの羽音は花の蜜を運ぶ蜜蜂たちの命の歌声。
藤の花の坂道は、
遥かな国への途中の蜜蜂の羽音。
怖がる事はない。
光りの招きに、
背中が透きとおっていくだけだから。








4.蓮華草
「かくれんぼ」をして遊びましたね。
元気にしていますか?
あのころの私のおともだち。
鬼は田圃の畦で後ろ向きになって数を数えます。
私たちはできるだけ遠くへ走って行って、
草丈の伸びた蓮華草の中に倒れこみます。
遠くで「見つけた!」の声がします。
蓮華草のミドリの茎が顔に被さってきます。
青い空の中で声がします。
もういいかい。まあだだよ。
天国の皆さん、
その後お変わりありませんか!











5.黄薔薇
駅で待ち合わせをした私たちは、
フラワーショップで一本の黄薔薇を買いました。
これから、彼に会いに行くので一緒に行って、
という友人のお願いに付き合ったのです。
彼は、カフェで働いている人でした。
彼女は「お久しぶり」と言って黄薔薇を彼に渡しました。
私たちは彼の作ってくれたカフェカプチーノを飲みました。
それは、シナモンスティックから染みとおる、
二十歳になったばかりの彼女の恋の味でした。




蔓薔薇レオナルド・ダ・ヴィンチ



6.ピンクの薔薇
初めてのボーナスでオーダーしたのは、
ピンクの薔薇模様のワンピースでした。
パフスリーブのその服を着たのは何回あったでしょうか。
素敵ね。薔薇の香りがするわ。
と、言ってくれたのは白衣の似合う一つ年上の女性でした。
私たちは目が会うとにっこり微笑みあいました。
二人とも父親がいない娘でした。
何が好き?
ピンクの薔薇。
そうね。そうよね。
私たちはにっこり微笑みあいました。




ミニ薔薇ピンクローズ







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